大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2824号 判決

しかしながら、被控訴人方啓は控訴人から本件建物を医院経営に使用する目的で賃借したのであつて、賃借するやたゞちに、控訴人の承諾を得て、自己の費用で、診察室、待合室、便所などを増築し、また手術室、検査室とするための改造をもなしたことは前段認定のとおりであつて、右増築工事は用途に何らの変更を加えるものでないことは勿論、さきになした増築で不備の点を補つてさらに医院として完備するように修理拡張したもので、そのため、使用上の価値は従来より増加したが、さきに控訴人の承諾を得た増築の程度と著しい相違があるものとは認められず、しかも、被控訴人恭子が優生保護医の指定を受けるための最小限度必要の工事であり、なお、明渡の際に原状回復が可能かつ容易であるように構造されていることは右認定のとおりである。他面、本件建物はすでに老朽し、被控訴人らから将来明渡を受けた場合は控訴人は建てかえを計画していることは控訴人の自認するところであるから、控訴人は被控訴人らをして旧状に復せしめることによつて、何ら利益なきに反し、被控訴人らは旧状に復することによつて、費用の点はもとより、優生保護医としての最少限度の施設をも欠くに至り、失うところが少くないであろうことは推認に難くない。

なお、当審における被控訴人方啓の本人尋問の結果によると増築工事が殆ど完成した頃、控訴人の妻が被控訴人方をおとずれたことはあるが、その際のみならず、増築工事の進行中に控訴人から増築工事の禁止を求められたことのなかつたことが認められる(この認定に反する当審における証人佐藤正吉の証言は信用できない)。

したがつて、控訴人は被控訴人方啓に対し工事停止について適法の催告をしていないのみならず、被控訴人の右増築工事が信頼関係に著しく違背するものとは認められないのでこれを理由として、契約の解除をなすが如きは信義則上許されないといわねばならないから、控訴人の予備的主張も亦理由がない。

(長谷部 浅賀 佐藤)

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